研究発表資料の作り方|方針策定からスライドの整え方まで解説

学会発表を申し込んだけど、まだ資料を作っていない。研究者や企業の人に自分の研究の価値が伝わりにくい。学会発表資料を学生向けの講義資料に活用しているが、理解度が低い。
等のお悩みをお持ちではないでしょうか。
今回の記事では、研究発表資料の下準備からデザイン調整まで、研究発表におけるスライド作成の流れを網羅的にご紹介します。
手順は大きく分けて下記のとおり、4つのフローに分類されます。

1. 資料の作成方針(ストーリー)を決める
自分の研究発表で重要となるのは「自分が言いたいことではなく、聴衆が知りたいことを書く」ということです。
あれもこれも伝えなければ…と思いがちですが、研究の主体者ではない人たちにとっては、そのこだわりは些末なことである可能性もあります。
限られた時間の中でこだわりを細かく伝えるよりも、研究の位置づけや背景を説明したほうが良いケースもあります。
方向性をぶれさせないためにも、どのような資料にすべきなのか、方針を事前に策定しておきましょう。
方針の策定例
以下は想定される読み手のニーズと方針の例になります。
読み手のニーズ
聴衆者の特徴 専門分野・年齢・ 所属機関・立場・役職 | 同じ工学系の研究者だが、領域はばらばら。 30代の若手研究者から教授クラスまで様々。 所属は大学院、または理研などの研究機構。 |
シーン 学会発表・シンポジウム・ 企業でのセミナー・大学の講義 | 学会発表 |
発表環境 制限時間・会場・ 自分以外の発表者の発表内容 | 制限時間は40分。 100名程度の規模のホール。 自分以外の発表者は基礎研究に近い人が多い |
このような読み手のニーズから導き出される構成要件は下記です。
発表資料の構成要件
ページのボリューム (1ページあたり1分程度で計算) | 研究動画紹介も含め30ページ程度 |
説明の粒度、 資料化する情報としない情報の線引き | 同業者が多いため、構築したシステムの詳細は割愛 また、ニッチな領域のため研究の背景と問題を 歴史的な流れも含めて厚めに説明 |
言葉の専門度合い | 工学系一般に使われる用語は使っていいものの 自分の研究領域独特の表現は避けるか説明を入れる |
これらはあくまで例示ですが、自身の研究発表に置き換えて想定しておきましょう。
Wordで一連の内容をまとめる
最初からパワーポイントでの作業に入ってしまうと、情報がスライドごとに分かれたまま並ぶことになり、何のための研究なのか、アカデミアや一般社会にどのようなインパクトを与えるのかが伝わりにくくなってしまいます。
ストーリー性がある発表資料とするためにも、まずはWordで一連の流れをストーリー化してしまいましょう。
以下のようなフローで進めていきます。

さて、すでに論文を投稿している場合や、過去の修士・博士論文を活用できる場合は、そちらを引用して策定した方針をもとにストーリーを作成しましょう。
一般的な研究論文は
①背景と問題、目的
②方法
③結果
④考察
といった「章立て」でまとめるている思います。
ここでポイントとなるのは、①「背景と問題、目的」をひとまとめに書いてしまうのではなく、「背景」「問題」「目的」に分類し、フローチャートのようにすることです。
このように整理することで、研究の社会的、学術的な価値についてのストーリーがより聴衆の頭に入りやすくなります。
(例)
背景
○○を取り巻く環境には「A」や「B」といった先行研究が存在している
問題
・一方で「C」については未解明である
・「C」は実用的な技術に応用可能であり、社会的価値がある
目的
・○○における「C」について明らかにする
2. ストーリーをスライドに割り振る
方針やストーリーが決まったら、次はパワーポイント上でページネーションを策定し、対応するスライドに要素を割り振っていきます。

まずは割り振り先のスライドを作るために、ページネーションを設定していきましょう。
ページネーションとは
ページネーションは台割やページ割とも呼ばれており、どのページに何を書くかを振り分けたもののことです。
パワーポイント上で白紙のスライドに大まかなタイトルを振っていく作業をイメージしていただけばと思います。
まず、全体の時間配分からページ数を割り出しましょう。
動画などの他コンテンツがなければ概算で1分=1ページとしてよいでしょう。
例えば20分の発表、15分の質疑応答であれば、表紙をのぞいて20枚くらい、というイメージです。
ページネーションの作り方
パワーポイントを開いたら「表示」タブから「アウトライン表示」を選択します。
アウトライン表示とは、パワーポイントのタイトルエリアやコンテンツエリアの編集を、画像の編集エリアから簡単に行える機能です。

上図の青枠部分を拡大すると、このようにスライドタイトルが並んでいることが分かります。

ここに入力した文言がそのままスライド内にタイトルとして反映されます。

都度ページを移動してタイトルエリアにテキストボックスを置いたり、テキストボックスをクリックしたりする必要がなくなるため、高速でページネーションを作成することができます。
アウトライン表示についての詳細はこちらをご参照ください。
▶ プレゼンの成功の第一歩|アウトラインの作り方と活用術をご紹介
ページをスライドに割り振り、コピー&ペースト
さて、本題のページネーション設定に戻りましょう。
研究発表資料において必ず設置すべき章立ては下記です。
20ページという概算から、自分の話したい内容に合わせてページ数を割り振ります。

作業を進めるうちに盛り込みたい内容が増えていくものなので、予備ページも数枚用意しておきます。
ページを割り振ったら、次はWordにまとめた文章を、それぞれ対応するパワーポイントのスライド内に貼り付けていきます。

これで、各ページに何を書くかはざっくりと決まった状態になりました。
全体の流れに違和感や理解しにくい部分がないか、最後に見直しておきましょう。
ここで策定したページネーションはあくまで仮の内容で、ページの中身を詰めていく段階でページの順番や内容は変動していくことを前提に進めていきます。
要素をキーメッセージとコンテンツに分解する
次はスライドに移した要素を、キーメッセージとコンテンツに分解していきます。

キーメッセージ | そのスライドで一番主張したいこと |
コンテンツ | キーメッセージの詳細な説明や、根拠となる情報 |
すべてのスライドは、
主張(キーメッセージ)→ 詳細説明など(コンテンツ)
または
根拠となる情報(コンテンツ)→ 主張(キーメッセージ)
の順に配置されていることが理想です。
前者の場合、いきなりコンテンツの説明から始まるより、キーメッセージで内容の大枠を理解してから説明を受ける方がわかりやすい順となっています。
後者の場合、根拠となる事実を積み上げることで主張に説得性を増すことができます。
では、実際にWordで作成した文章をキーメッセージとコンテンツに分解してみましょう。
例えば、「背景」のスライドに下記のような文章が貼り付けられているとします。
山田、鈴木などが20XXに行った研究によると、視覚的刺激を用いた乳幼児の○○における反応を測定するとA,Bのような結果になることがわかっている。
また、そのX年後にJames,Georgeなどが行った研究によると、聴覚的刺激を用いて○○反応を測定した場合はC,Dであることが明らかになっている。
一方で、視覚的刺激と聴覚的刺激の相互作用による効果を検証する研究はまだ存在しない。
これらの文章を分解すると、
キーメッセージ
・乳幼児の○○反応を測定する研究において、視覚的刺激と聴覚的刺激の相互作用による効果を検証する研究はまだ存在しない。
コンテンツ
・その他の説明すべて
という風に分けられます。
テキストを図解やグラフに変換する
要素を分解したら、図解やグラフに変換していきましょう。

要素を分解し、テキストで記載しただけのスライドは下記のようになります。

こういったスライド内容で作成している方も多いのではないでしょうか。
自分が行っている研究ではない内容をテキスト情報だけで読み取るのは、聞き手にとって時間も負担もかかってしまいます。
説明している方にとっては毎日たくさんの時間を費やして考えていることなので、具体的なイメージをお持ちだと思うのですが、聞き手にとってはそうではありません。
相手がまだ読み込めていない・理解しきれていない状態のまま次の内容に進んでしまい、研究の意義が全く伝わらなかった…ということを避けるためにも、できるだけシンプルに、一目見てわかる状態のスライドを作成する必要があります。
それでは上のスライドを図解に変換してみましょう

いかがでしょうか。
文字だけの説明より、構造がすぐに頭に入ってきます。
今回はたまたま2種類の条件に両方当てはまるということを伝えるためにベン図を用いましたが、他にも
・マトリクス図
・象限図
・フロー図
・階層図
など表現方法は様々です。
一度手書きでメモ用紙に図解してみるなどして、一番伝わりやすい図解の方法を検討しましょう。
テキストを図解やグラフに変換した後は、最後の仕上げ工程に入ります。
見やすい資料にするために、デザインを調整していきましょう。
【関連記事】
▶ 【デザイン例付】マトリクス図とは? 種類やパワポでの作成方法を解説
▶ ベン図とは?種類・活用例からパワポでの作り方まで解説
▶ ロジックツリーとは?種類から活用例・パワポでの作り方まで解説
資料のデザインを調整する
①文字や図形のレイアウト・大きさを統一し、差分を明確にする
聞き手が資料やプレゼン内容から差分を見出すためには、時間が必要となります。
スライド毎の差分を明らかにし、何に注目すべきなのがを一目瞭然とするには、以下のようなデザイン調整をおすすめいたします。
- 文字や図形の位置・大きさをスライド間でそろえる
- 重要度が同程度の文字や図形の配色をスライド間でそろえる
- 重要度が高い文字や図形は目立たせる
例えば、下のようなスライドが2枚連続すると、「差分は何か」「結果はどう異なるのか」ということがわかりにくいです。



グラフのように結果の肝となる部分を示す際には特に工夫が必要です。
下のように、四角形のレイアウトや大きさを揃えたうえで、連続したスライド間での差分を明確に示しましょう。



こうすることで、結果がどのように違ったのか、手法はどのように変更したのか、などの差分が一目瞭然になりますね。
文字や図形のレイアウトや大きさに気を遣うことでパワーポイントを見やすくするテクニックについては、こちらの記事もご参照ください。
【関連記事】
▶ プレゼン初心者必見!レイアウト4原則でわかりやすい資料を作ろう
▶ パワーポイントの見やすい文字サイズと編集方法を徹底解説!
②強調色を3つに絞る
研究発表において、強調すべき点は
「有意差が認められる」 ⇔ 「有意差が認められない」
「手法のメリット」 ⇔ 「手法のデメリット」
「新しく提案される手法」 ⇔ 「問題がある手法」
といったように、ポジティブ・ネガティブの対になる内容であることが多いと思います。
そこで、強調カラーは青などのポジティブカラーと赤などのネガティブカラーに分けておきます。
赤色は危険を想起させる色であることから、日本以外の地域でもネガティブカラーとされることが多いです。
ポジティブとネガティブのどちらにも当てはめにくい強調箇所はオレンジやピンクなど、別の色を用いましょう。
【関連記事】
▶ パワポ資料の配色はこれで決まり!カラーコードの組み合わせや便利なサイトも紹介
③グラフ内の不足情報をなくす
グラフは研究結果を端的に表す肝となる部分です。手を抜かずに作成しましょう。
例えば下のようなグラフだと、聞き手にとっては何を表すグラフなのかひと目で理解することはできません。解説を聞きながらメモを取る必要が出てきてしまいます。

このように、聞き手に「何を表しているのか?」について疑問を生じさせないよう、不足情報が内容にしておきましょう。

さいごに
専門性の高い研究内容を聞き手にわかりやすく伝えるためには、資料の準備が欠かせません。
方針策定から資料のデザイン調整まで、「情報を明確に伝える」ということを意識して作成していくことが重要です。今回の記事でご紹介した内容をぜひ資料作成にお役立てください。