海外企業のようなIR資料を作る!配色のポイントとは?
IR資料の配色ひとつで会社の印象は大きく変わります。日本企業が海外投資家の興味を引き付けグローバル市場での競争力を高めるために、海外企業の洗練されたデザインに魅力を感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、日米IR資料の配色の違いを紹介し、日本の投資家にも配慮したバランスの取れたアプローチについて詳しく解説します。
はじめに
IR資料は、企業の顔とも言えるものです。その見た目が投資家への第一印象を大きく左右します。近年投資家のニーズが多様化する中で、日本企業の間でも海外企業のようなデザイン性の高いIR資料作りへの関心が高まっています。
中でも注目したいのが「配色」です。
この記事では、海外企業のようなIR資料のデザインにするポイントの一つである「配色」についてお伝えします。海外と一口に言っても様々ですので、今回は日本と米国のIR資料における配色の違いを紐解きながらそのポイントを探っていきます。
投資家の目を引くデザインのコツや、国を問わず受け入れられやすい配色の際のバランスの取り方まで、詳しくご紹介します。グローバルなデザインの視点も取り入れた、より魅力的なIR資料を作成するためのアイデアとしてお役立てください。
配色が違う!日本と米国のIR資料の違い
ここではSaaS企業の業績ハイライトページを例に、日本と米国のIR資料における配色の特徴を詳しくお伝えします。
日米のデザインを比較するため、インターネット上で公開されている決算説明会資料の中から日本・米国で4社分ずつ、代表的な1ページをピックアップしました。実際のページを元に早速その特徴を見ていきましょう。
日本のIR資料|上品で落ち着いたデザイン
色数は少なく、同系色の濃淡での構成①②
日本の資料では落ち着いた色調が多く採用され、全体的に上品な印象です。
例えば①フリーの資料では青、②マネーフォワードではオレンジなど単一の色相を中心に濃淡の違いで構成されています。この手法は資料全体に統一感をもたらし、読み手に安定感を与えます。
高彩度・濃い色の使用は控え目②④
日本の資料では、彩度が高い(鮮やかな)色や濃い色が使われることがあってもあまり広い面積には使わず、目立たせたい箇所にだけポイントで使われる傾向があります。
例えば②マネーフォワードや④ヤプリの資料では目立たせたい数字のみ鮮やかな色を使用し、背景色には彩度を抑えた色調やグレーを使用することで全体的に落ち着いた柔らかな印象を与えています。
穏やかなコントラスト①③
日本の資料では色と色の間のコントラストも比較的控え目です。
例えば①フリーの資料では青と白③Chatworkは赤と白のコントラストは明確ですが、その他の色数が少ないため全体的には穏やかな印象です。これにより、情報が整然と並んでいるように見えます。
日本の資料が与える印象
このような色使いは信頼性や堅実さを重視する投資文化と合致しています。落ち着いた色調は企業の安定性や誠実さを暗示し、長期的な成長を重視する投資家の期待に応えるものです。
米国のIR資料|大胆で印象的なデザイン
米国企業の資料は特に「日本のIR資料ではあまり見られないデザイン」に絞って見ていきます。
複数の色を活用した構成②③
米国の資料では複数の異なる色相を組み合わせて使用することも数多く見られます。
例えば②Splunkの資料ではピンク→赤→オレンジへの鮮やかなグラデーションが目を引き、③WalkMeの資料ではオレンジと青が補色(反対色)の関係になっています。これにより視覚的なインパクトを高めています。
高彩度・濃い色の多用②④
米国の資料では、彩度の高い鮮やかな色や濃い色が積極的に使用されています。
例えば②Splunkの資料ではグラデーションも数字のピンクも全て明るく鮮やかな色調です。
④Cloudflareの資料では同系色ですが、同じく同系色の日本の②マネーフォワードとは対照的に背景の広い面積に濃紺、ポイントに明るい青色を使用し濃い色と高彩度な色が目立つな配色となっています。
強いコントラスト①③
米国の資料では色と色の間のコントラストも強いのが特徴です。
例えば①CrowdStrikeの資料では黒地に緑や白のテキストを配置、③WalkMeの資料では大きなオブジェクトにオレンジ色と青色が同程度の面積で使われており、同一ページ内で強い配色のコントラストを生み出しています。これにより重要な情報が一目で分かるようになっています。
米国の資料が与える印象
このような大胆で鮮やかな色使いは企業の活力や革新性を表現し、急成長を期待する投資家の興味を引きつけます。また強いコントラストは重要な情報を即座に伝える効果があり、スピードを重視する市場に適しています。
米国の資料ではなぜ鮮やかな配色が使われるのか?
いかがでしょうか。日本と米国のIR資料を並べてみると、その違いに驚かれたかもしれません。
なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。
その背景には、決算説明会の形態の違いや文化的な要因など、複数の理由が考えられます。
1. 決算説明会の形態の違い
米国企業のIR資料で鮮やかな配色が使われる大きな理由の一つに、決算説明会の形態の違いがあります。
テレカンファレンス主体の米国
当社のコンサルタントによれば、米国では国土が広いため会場開催は少なく、コロナ禍以前から基本的にテレカンファレンス(電話会議)のみで決算説明会を行う企業が多いとのことです。
このような形態では印刷配布する習慣がないため、色使いに制約が少なくなります。
印刷の制約からの解放
資料を一般的なオフィス用プリンターで印刷する場合、彩度が高い(鮮やかな)色の中には再現しにくい色がある、濃い色を広い面積に使うと多くのインクを消費する、などのリスクを考慮しなければなりませんが、印刷しない場合はその制約もなくなるためより自由な配色が可能になります。
デジタルディスプレイでの視認性重視
テレカンファレンスでは参加者がそれぞれのデバイスで資料を閲覧します。
デジタルディスプレイ上では鮮やかな色使いや強いコントラストが情報の視認性を高め、重要なポイントを効果的に強調することができます。
2. 好まれる色調の違い
配色の違いには、地理的・生物学的・文化的な要因など様々な説が唱えられています。
地理的要因:日照時間の違い
米国は日本よりも日差しが強い地域が多いという地理的な要因があります。強い日差しに慣れている環境では、より鮮やかな色彩が好まれる傾向があると考えられます。
生物学的要因:色の知覚の違い
人種によって目の色が違うことにより、知覚できる色彩が異なるという生物学的要因も指摘されています。これは、同じ色でも人種によって異なる印象を与える可能性があることを示唆しています。
文化的背景:色彩感覚の違い
日本人は江戸時代に流行した「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねず)」のように微妙な色彩の差も区別してきたという文化的背景があります。このような伝統が日本人の色彩感覚に影響を与え、上品な色使いを好む傾向につながっている可能性があります。
海外のような資料を作成したい!検討時のポイント
IR資料の目的は、企業の現状や将来像を投資家に効果的に伝え企業の成長性に投資してもらうことです。海外風の洗練されたデザインを取り入れたいと考える場合、以下のポイントを押さえることが重要です。
1. 海外投資家と日本の投資家の比率を考える
海外の資料のような鮮やかなデザインを取り入れたい場合でも、読み手である投資家のうちどの程度が日本人かなどを考慮に入れた上で、検討すると良いと思います。
海外投資家の割合が多く、そこに向けてアピールしたい場合などは鮮やかなデザインを検討する価値があります。
2. ターゲットへの伝えやすさ・伝わりやすさを最重視する
IR資料のデザインを検討する際、最も重要なのは投資家への伝わりやすさです。
「他の企業と被らない個性がほしい」などの理由であっても、単に見た目の華やかさを追求するのではなく情報の伝達効率を最優先に考えましょう。
3. 印刷時の見やすさを考慮する
デジタル表示での見栄えだけでなく印刷された際の読みやすさも重要です。
特に日本人投資家の中には印刷した資料で内容を確認する方も多いため、印刷用途の有無を含め忘れずに検討しましょう。
海外と日本、両方の投資家に向けたデザインにするには?
1. 鮮やかな色をポイントで使う
海外投資家の目を引く鮮やかな色使いを取り入れる際は、彩度が高い(鮮やかな)色や濃い色を広範囲に使うのではなくポイント使いをおすすめします。これにより、以下の効果が期待できます。
- 色の再現性のリスクを最小限に抑えられる
- インク代の節約につながる
- 重要な情報への注目度が高まる
敢えて重要なページだけにして目立たせる
決算ハイライトの数字やグラフなど、特に重要なページにのみ鮮やかな色を使用します。これにより、読み手の注意を効果的に引きつけることができます。
重要でないページだけにしてリスク回避する
逆に重要な情報を掲載しない表紙・中扉などに絞れば、もしプリンターでの色の再現度や色ムラの問題が発生しても、重要な情報だけは読み手にきちんと伝わります。
2. 色を広い面積に使う場合は彩度と色相を工夫する
また、日本人の投資家にも向けたデザインにしたい時は、色を広い面積に使いつつも、彩度は抑える、同系色でまとめるなど、少しの工夫で受け入れられやすくなるかと思います。
まとめ
IR資料のデザインは単なる見た目の問題ではなく、企業の魅力を効果的に伝える重要なツールです。日本と海外の投資家双方に訴求するためには、両者のニーズを理解しバランスの取れたアプローチが必要です。
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