IPO準備の流れを解説!やることや準備する資料・費用について紹介
IPO(株式上場)は、企業の成長における重要なマイルストーンです。上場するには、数年以上をかけて綿密に準備する必要があります。
本記事では、IPO準備の全体像を把握するため、具体的な準備事項とスケジュール・必要な費用について段階的に解説します。ぜひ参考にしてみてください。
目次
・IPOの準備にはおおむね3年はかかる
・IPOの準備に必要なステップ一覧
・IPOの準備【N-3期】
1. IPOプロジェクトチームの設置
2. 監査法人の選定
3. ショートレビューの実施
4. 主幹事証券会社の選定
・IPOの準備【N-2期】
1. 内部管理体制の整備
2. 会計監査体制の確立
3. 関係会社の整備
・IPOの準備【N-1期】
1. 上場申請書類の作成
2. 主幹事証券審査による中間審査
3. 証券印刷会社の決定
・IPOの準備【N期】
1. IPO関連資料の作成
2. 証券会社の引受審査
3. 証券取引所の上場審査
・IPO準備で必要となる費用
1. 上場審査料
2. 登録免許税
3. 監査法人費用
4. 主幹事証券会社への費用
5. 証券印刷会社への費用
・ストリームラインの資料制作事例
・IPOの準備をするなら資料制作代行への依頼がおすすめ
IPOの準備にはおおむね3年はかかる
IPOを実現するには、最低でも3年以上の準備期間が必要です。監査法人による会計監査への対応や主幹事証券会社との関係構築など、さまざまな準備を並行して進める必要があります。
この3年という期間は、決して長すぎる設定ではありません。むしろ、急いでIPOの準備に取り掛かると不手際が発生する確率が高くなり、かえって上場までの道のりを長くする恐れがあります。計画的な準備こそが、確実なIPO実現への近道と言えます。
IPOの準備に必要なステップ一覧
IPOの準備として取りかかるべき内容を細分化して、一覧にした表はこちらです。
時期 | 項目 | 概要 |
---|---|---|
N-3期 | IPOプロジェクトチームの 設置 | 経営企画を中心に、各部門のスペシャリストで構成される 上場準備の司令塔を設置する。 |
N-3期 | 監査法人の選定 | 信頼できる監査法人を選ぶ。 |
N-3期 | ショートレビューの実施 | 財務諸表の適正性を確認する予備的な監査を実施する。 |
N-3期 | 主幹事証券会社の選定 | 上場実現の重要パートナーとなる証券会社を、 総合的な評価に基づき選定する。 |
N-2期 | 内部管理体制の整備 | 取締役会や監査役会の設計・内部統制システムの構築など、 経営基盤を確立する。 |
N-2期 | 会計監査体制の確立 | 上場企業レベルの会計基準に対応できる経理体制と 業務フローを整備する。 |
N-2期 | 関係会社の整備 | グループ会社との取引関係や資本関係を見直し、 適切な管理体制を構築する。 |
N-1期 | 上場申請書類の作成 | 有価証券届出書など、上場に必要な書類を作成し、 企業情報を開示する。 |
N-1期 | 主幹事証券審査による 中間審査 | 証券取引所の本審査前に、主幹事証券会社による 厳密な事前審査を受ける。 |
N-1期 | 証券印刷会社の決定 | 申請書類の印刷やシステムの提供・チェック業務まで ポートする。 |
N期 | IPO関連資料の作成 | 目論見書やロードショーマテリアルを用意する。 |
N期 | 証券会社の引受審査 | 企業の事業継続性や収益性・経営の健全性について 徹底的な審査が行われる。 |
N期 | 証券取引所の上場審査 | 企業の収益性や成長性・経営管理体制・企業統治の仕組みなど、 多角的な視点から審査が行われる。 |
以降では、上場3年前にあたるN-3期から直前期のN期にかけて、具体的にどのような準備が必要なのかについて解説します。
IPOの準備【N-3期】
IPO準備の初期段階では、以下の4つのステップに取り組みます。
- 1. IPOプロジェクトチームの設置
- 2. 監査法人の選定
- 3. ショートレビューの実施
- 4. 主幹事証券会社の選定
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. IPOプロジェクトチームの設置
上場準備の初動として、社内横断的なIPOプロジェクトチームを立ち上げます。プロジェクトチームの主な役割は、上場に向けた課題の特定と改善策の立案です。また、外部アドバイザーとの窓口として、上場準備全体の進行管理を担います。
リーダーには、IPO経験者や最高財務責任者(CFO)が適していますが、外部コンサルタントがチーム全体の指揮を取るケースもあります。
2. 監査法人の選定
信頼できる監査法人の選定は、N-3期中に終わらせるべきポイントです。監査法人は、決算書や財務諸表などの報告書が正しく作成されていることを証明する役割があります。
IPOを達成するには、2期分の監査報告書が必要であるため、N-3期には監査法人の選定を済ませましょう。監査法人を見つけられずにIPOの準備が遅れてしまう「監査難民」に陥るケースもあります。そのため、N-3期に入る半年前には監査法人と契約することを目標に選定を進めていきましょう。
3. ショートレビューの実施
監査法人の選定後、財務諸表の適正性を確認するショートレビューを実施します。ショートレビューとは、上場に向けた課題を明確にするための調査で、監査法人が担当します。
具体的な確認項目は、以下のとおりです。
- 会社の組織や内部の管理体制
- コーポレートガバナンス体制
- 関係会社や取引状況
- 特別利害関係者等との取引 など
IPOの準備を進める企業は、N-3期の段階からショートレビューを受け、上場に向けた課題や解決策・施策の優先順位を明確にする必要があります。
4. 主幹事証券会社の選定
上場実現の重要なパートナーとなる主幹事証券会社の選定も、N-3期の重要課題です。主幹事証券会社は、上場審査のアドバイスから株価算定・投資家への営業活動まで幅広く支援する役割を担います。
主幹事証券会社を選定する際は、以下のポイントを意識しましょう。
- 業界実績
- 投資家への販売力
- サポート体制
- 担当者の信頼感 など
上場後の株価形成やIR活動支援などの重要な役割を担うため、長期的な関係構築を見据えて選定することが大切です。複数の証券会社からの提案を慎重に比較検討すると良いでしょう。
IPOの準備【N-2期】
N-2期における準備作業は、主に以下の3つです。
- 1. 内部管理体制の整備
- 2. 会計監査体制の確立
- 3. 関係会社の整備
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 内部管理体制の整備
N-2期では、上場企業としての経営基盤を確立する本格的な準備が始まります。ショートレビューで明らかになった課題や改善点をもとに、管理体制を整えていきましょう。
具体的に取り組むべき内容の例は、以下のとおりです。
- 取締役会や監査役会などの機関設計
- コンプライアンスとリスク管理体制の構築
- 従業員の管理体制の整備 など
なお、内部管理体制の整備状況は、後の上場審査で重点的に確認される項目であるため、丁寧に進めましょう。
2. 会計監査体制の確立
N-2期は、上場企業レベルの会計監査対応が本格的に始まる重要な時期です。この段階では、経理部門の体制強化と業務フローの整備が最優先課題です。
具体的には、月次決算の精度向上や予実管理の徹底・J-SOX対応の準備などを進めます。J-SOX法とは、上場企業における財務報告の信頼性を保つための制度です。
監査法人との定期的な協議を通じて、会計上の課題を早期に発見し解決へつなげましょう。
3. 関係会社の整備
関係会社との関係性を見直し、グループ全体の管理体制を整備する段階です。とくに親会社や子会社との取引については、その合理性と条件の妥当性を厳密に検証します。
不適切な利益供与や決算操作のリスクがある取引は、統廃合や売却などを検討し体制を整理しましょう。また、会社の役員やその親族などにあたる特別利害関係者との取引も解消する必要があります。
IPOの準備【N-1期】
IPO準備におけるN-1期の重要なステップは、以下の3つです。
- 1. 上場申請書類の作成
- 2. 主幹事証券審査への対応
- 3. 証券印刷会社の決定
ひとつずつ見ていきましょう。
1. 上場申請書類の作成
N-1期では、上場申請に必要な各種書類の作成が本格化します。N-2期中に書類作成に必要な情報の収集を完了させ、N-1期の第2四半期頃までに完了させるのが理想的でしょう。
有価証券届出書や新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)が主要な提出書類です。提出書類には会社の事業内容や経営方針・財務状況・リスク情報など、詳細な企業情報の開示が必要です。とくに、事業リスクの記載は投資家保護の観点から正確性と網羅性が重視されます。
資料を作成するなかで、主幹事証券会社や監査法人からの指示に基づく修正対応が発生します。内容によっては長引く可能性があるので、スケジュールに余裕を持って進めましょう。
2. 主幹事証券審査による中間審査
証券取引所による本審査の前に、主幹事証券会社による中間審査が実施されます。審査期間は、会社の規模や事業の複雑性によりますが、半年ほどかかることを見込んでおきましょう。
この審査では、事業計画の実現可能性や内部管理体制の適切性が重点的にチェックされます。指摘された課題には迅速な改善対応が必要で、場合によっては経営体制の見直しも求められることもあるでしょう。
主幹事証券審査による中間審査は、証券取引所の本審査に進むための重要なプロセスと言えます。
3. 証券印刷会社の決定
上場申請書類の作成には、証券印刷会社の選定が欠かせません。証券印刷会社は、申請書類の印刷やシステムの提供・チェック業務までサポートします。
日本における証券印刷会社は、宝印刷とプロネクサスの2社のみです。IPO準備において、できる限り早めに証券印刷会社と関係を構築しておけば、より円滑に準備が進められるでしょう。
IPOの準備【N期】
N期における準備には、以下の3つの重要なステップがあります。
- 1. IPO関連資料の作成
- 2. 証券会社の引受審査
- 3. 証券取引所の上場審査
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. IPO関連資料の作成
IPOに向けて、さまざまな開示資料の作成が必要です。具体的な資料の例は、以下のとおりです。
書類 | 概要 |
---|---|
目論見書 | 企業の事業内容や財務状況、リスク情報などを詳細に記載 |
ロードショーマテリアル | 投資家向けに事業戦略や成長性をわかりやすく説明 |
成長可能性に関する事項 | 市場環境分析や事業計画の実現可能性について具体的な根拠を説明グロース市場に上場する場合に求められる |
このような資料を作成するために準備したデータや図解は、のちのち決算資料を作成する際にも使えます。また、IPO準備期から資料作成代行サービスに依頼することで、IPO資料だけでなく上場後に決算資料を作成する際もスムーズです。
資料作成代行サービスを利用すれば、社内のリソースを割くことなくコンスタントに質の高い資料を作成できます。
なお、弊社ストリームラインでは、資料制作のご依頼を承っています。定期的に更新が必要な決算説明会資料の改善に向けたサポートも可能です。IR資料の作成についてお困りの方は資料作成のワンストップ代行サービス「LEAD」までお気軽にご相談ください。
2. 証券会社の引受審査
主幹事証券会社による引受審査は、上場に向けた最初の関門です。約5〜6ヵ月かけて、企業の事業継続性や収益性・経営の健全性について徹底的な審査が行われます。
実地調査・経営陣との面談などを通じて、上場企業としての適格性が判断されます。とくに業績動向や将来の成長性・ガバナンス体制については具体的な資料による説明が求められ、指摘された課題への迅速な対応が必要です。
3. 証券取引所の上場審査
証券取引所による上場審査では、企業の収益性や成長性・経営管理体制・企業統治の仕組みなど、多角的な視点から審査が行われます。とくに、事業計画の実現可能性や内部管理体制の適切性が重点的にチェックされるでしょう。
書面審査やヒアリング・実地調査を通じて、上場企業としての適格性が厳密に判断されます。
IPO準備で必要となる費用
IPOの準備には、さまざまな費用が必要です。ここでは、具体的な費用項目について解説します。
- 1. 上場審査料
- 2. 登録免許税
- 3. 監査法人費用
- 4. 主幹事証券会社への費用
- 5. 証券印刷会社への費用
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 上場審査料
上場審査料は、市場区分により異なる費用体系が設定されています。
市場 | 上場審査料 | 新規上場料 |
---|---|---|
プライム市場 | 400万円 | 1,500万円 |
スタンダード市場 | 300万円 | 800万円 |
グロース市場 | 200万円 | 100万円 |
なお、審査を通過し新規上場する際も別途料金がかかることを押さえておきましょう。上場審査料は、上場申請日の翌月末までに支払いが必要で、審査結果に関わらず返金されません。
過去3年以内の上場申請実績がある場合、審査料が半額になる場合もあります。
2. 登録免許税
IPO時の資本金増加に伴って商業登記簿への登記が求められます。その際に登録免許税が発生し、税額は資本組入額の0.7%(1000分の7)です。
資本組入額とは、会社が損失等の不測の事態に備えて積み立てておく資本準備金の一部を資本金に組み入れる金額のことです。たとえば、10億円の公募増資を行い、その半額の5億円を資本金として計上した場合、登録免許税は350万円と計算できます。
なお、資本組入額の0.7%が15万円に満たない場合は、申請件数1件あたり15万円が課税されます。
3. 監査法人費用
監査法人費用の相場は、年間数百万円~数千万円です。この費用には、財務諸表の監査や内部統制の評価・会計処理の指導などが含まれます。
会社の規模や業態により金額は変動し、監査の工数や複雑さによって増減することもありえるでしょう。上場申請前の2期分の監査証明が必要で、直前々期より直前期のほうが高額になる傾向にあります。
4. 主幹事証券会社への費用
主幹事証券会社に支払う年間の費用相場は、500万円~2,000万円が一般的です。
この費用には、実務的なアドバイスや上場審査対応のサポートなどが含まれており、上場準備期間中は、継続的に料金が発生します。
主幹事証券会社は、上場準備から上場後まで包括的なサポートを受けられる重要なパートナーであるため、多少料金が高くても信頼できる会社を選びましょう。
5. 証券印刷会社への費用
証券印刷会社へ依頼することで、年間500万円程度の費用が発生します。上場申請には専門的な書類作成が必須であり、証券印刷会社は有価証券報告書や目論見書などの重要な書類の作成支援を担います。
これらの書類は法令に準拠する必要があり、高度な専門性と機密保持が求められるため、経験豊富な証券印刷会社との協力は不可欠な要素と言えるでしょう。
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IPOの準備をするなら資料制作代行への依頼がおすすめ
IPOの準備には、資料を作り込む必要があるため、経営者や担当者にとって大きな負担になりかねません。この課題を解決する有効な手段が、資料制作代行サービスの活用です。
作成された資料は、上場後の決算説明会や投資家向け説明会などでも継続的に活用できます。
さらに、社内の資料作成業務の効率化にもつながり、本来の業務に集中できる環境が整うでしょう。
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