統合報告書とは|目的や必須項目を簡単に解説!作り方5ステップや日経アワードも紹介
統合報告書は、企業の財務情報と非財務情報を統合的に開示する重要なレポートですが、その作成には多くの時間と労力を要します。とくに、各部門から情報を収集し整合性のある形でまとめ上げる作業は、担当者にとって大きな負担となるでしょう。
本記事では、1000社以上の資料作成に携わった弊社ストリームラインが、以下のテーマについて解説します。
統合報告書の概要と作成目的
統合報告書に含めるべき8つの要素
統合報告書の作成プロセスと注意点
統合報告書の作成に悩んでいる方や効果的な情報開示を目指している方に向けて、具体的な事例を交えながらポイントを解説します。ぜひ、統合報告書の作成にお役立てください。
目次
・統合報告書とは|概要を解説
1. 統合報告書とは企業の財務情報と非財務情報をまとめた資料のこと
2. 統合報告書とアニュアルレポートなどその他資料との違い
・統合報告書を作成する目的
1. 企業の統合的な価値を全ステークホルダーに共有する
2. ESG投資を獲得し金融資産引き揚げリスクを下げる
・統合報告書に含めるべき8つの必須項目
1. 価値観
2. 長期のビジョン
3. ビジネスモデル
4. リスクと機会
5. 実行戦略や中期経営戦略
6. 成果指標
7. ガバナンス
8. エンゲージメント
・統合報告書の作り方5ステップ
1. 読み手をターゲティングし行動変容を想定する
2. 発行時期とコストを決定する
3. 方向性を明確にする
4. 統合報告書の制作に着手する
5. 自社サイトで公表しプレスリリースで配信する
・日経統合報告書アワードのグランプリ3社を紹介
1. コンコルディア・フィナンシャルグループ
2. 東京応化工業
3. 野村総合研究所
・統合報告書の作成に困ったら資料制作のプロへお任せ!
統合報告書とは|概要を解説
まず、統合報告書の概要について解説します。
- 1.統合報告書とは企業の財務情報と非財務情報をまとめた資料のこと
- 2.統合報告書とアニュアルレポートなどその他資料との違い
統合報告書に類似するレポートとの違いについても紹介するので、詳しく見ていきましょう。
1. 統合報告書とは企業の財務情報と非財務情報をまとめた資料のこと
統合報告書は、企業の財務情報と非財務情報を統合的に報告する資料です。財務情報には売上や利益・資産などが含まれ、非財務情報にはESGやビジネスモデル、SDGsの取り組みなどが含まれます。
統合報告書は、企業の短期的な業績だけでなく、長期的な価値創造力を示すことを目的としています。
最近では、大企業を中心に統合報告書を発行する会社は増加しており、2020年には500社に到達しました。(参考:日本企業の統合情報に関する調査)
このことからも、企業の情報を公に公開する取り組みが注目されつつあることがわかるでしょう。
統合報告書は、ステークホルダーに対し企業の持続可能性や将来見通しを伝える重要な資料と言えます。
2. 統合報告書とアニュアルレポートなどその他資料との違い
統合報告書とその他の報告書には、目的の違いがあります。各報告書の概要は以下のとおりです。
資料 | 概要 |
アニュアルレポート | 主に株主・投資家向けに、1年間の財務状況や事業活動を報告。統合報告書と比べ、財務情報の比重が高い。 |
サステナビリティレポート | 環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みを報告。統合報告書の一部として含まれることもある。 |
有価証券報告書 | 金融商品取引法に基づき、上場企業が提出する法定開示書類。統合報告書よりも詳細な財務情報が掲載される。 |
中期経営計画 | 中期経営計画は、企業が3〜5年先を見据えて策定する経営戦略。企業の目指す方向性や具体的な数値目標、施策などが盛り込まれる。 |
それぞれのレポートや報告書に明確な目的があります。そのなかでも統合報告書は、ステークホルダーに自社の過去・現在や業績だけでなく、将来的な成長や戦略について網羅的に伝えるための資料と言えるでしょう。
サステナビリティレポートについてより詳しく知りたい方は、別記事「【制作事例付】サステナビリティレポートとは?目的や盛り込むべき項目・作り方を解説」も参考にしてみてください。
統合報告書を作成する目的
次に、統合報告書を作成する目的について2つ解説します。
- 1.企業の統合的な価値を全ステークホルダーに共有する
- 2.ESG投資を獲得し金融資産引き上げリスクを下げる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 企業の統合的な価値を全ステークホルダーに共有する
統合報告書の目的は、企業の財務面だけでなく非財務面の価値も統合的に伝えることです。
企業の短期的な業績と長期的な成長戦略を網羅的に説明することで、ステークホルダーの理解と信頼を得ることが統合報告書の主な狙いと言えます。
また株主・投資家だけでなく、従業員、取引先、地域社会など、全てのステークホルダーに向けて作成するのも重要な目的です。
統合報告書で会社の情報を公開することは、ステークホルダーとの建設的な対話を促進し、企業の持続的成長を支える関係構築に役立つでしょう。
2. ESG投資を獲得し金融資産引き揚げリスクを下げる
統合報告書は、ESG(環境・社会・ガバナンス)情報を積極的に開示し、投資家にアピールすることを目的の一つとしています。
なぜなら投資家は、財務面だけでなくESGの取り組みも評価して投資先を選ぶESG投資にシフトしつつあるからです。
ESG評価の高い企業は、株価の安定性や資金調達の優位性など、金融面でのメリットが期待できます。一方、ESG評価の低い企業は、投資家からの資金引き揚げのリスクが高まる恐れがあります。
そのため、統合報告書で自社のESG情報を的確に伝えることが重要です。
統合報告書でESG情報を積極的に開示し投資家の支持を得ることで、金融資産引き揚げ(ダイベストメント)リスクを下げる効果を期待できます。
統合報告書に含めるべき8つの必須項目
次に、統合報告書に盛り込むべき項目について8つ紹介します。
- 1.価値観
- 2.長期のビジョン
- 3.ビジネスモデル
- 4.リスクと機会
- 5.実行戦略や中期経営戦略
- 6.成果指標
- 7.ガバナンス
- 8.エンゲージメント
これから統合報告書を作成しようとお考えの方は、ぜひ参考にしてみてください。
1. 価値観
企業の価値観は、会社の意思決定や行動の基盤となる基本的な考え方であり、文化や風土を形作る重要な要素です。一般的には、経営理念や行動指針などの項目で取り上げられます。
「自社がどのような価値を提供できるのか」についての考えを統合報告書にまとめられると良いでしょう。価値観は、ステークホルダーとの信頼関係構築に大きな影響を与えます。
企業の独自性や差別化要因にもつながるため、統合報告書では価値観を前面に打ち出すことが重要です。
2. 長期のビジョン
長期ビジョンは、企業が目指す将来の姿を示すものです。企業の存在意義や目的を明確にすることで、ステークホルダーに企業の戦略策定や意思決定の指針を示します。
社会全体の変化や業界の構造を考慮し「いつまでにビジョンを達成するのか」の期間を宣言することも重要です。統合報告書では、長期ビジョンを具体的かつ魅力的に描くことが求められます。
3. ビジネスモデル
ビジネスモデルは、企業が事業を通じて価値を創造し、収益を上げるしくみを表します。投資家は、ビジネスモデルから企業の成長する力を見極めています。そのため、企業側は競争優位性や主な収益源、収益構造などを説明する必要があるでしょう。
ビジネスモデルは、企業の競争優位性や差別化要因を示す重要な要素です。そのため統合報告書では、ビジネスモデルを分かりやすく図示するなど、ステークホルダーに伝わる工夫が求められます。
4. リスクと機会
企業を取り巻くリスクと機会を特定し、評価することは重要な経営課題です。
リスクには、経済環境の変化・技術革新・競合他社の動向など、さまざまな要因があります。一方、事業機会には新規市場の開拓・新製品の開発・事業提携など、企業の成長に役立つ要素などが含まれるでしょう。
統合報告書ではリスクと機会を具体的に説明し、対応策を示すことが求められます。リスクと機会への適切な対応が、企業の持続的成長を左右します。
5. 実行戦略や中期経営戦略
実行戦略や中期経営戦略は、企業の長期ビジョンを実現するための具体的な計画を示します。
長期的な戦略をどのように具体化するのかを詳しく説明する項目であるため、多くのページを割いて説明することになる傾向があります。
市場環境や自社の強み・弱みを分析し、重点施策や資源配分の方針を決定します。グローバルな投資家の理解を獲得するには、SDGsや2030アジェンダなどの国際的な枠組みを参照すると良いでしょう。
中期経営計画には、数値目標や行動計画、スケジュールなどを具体的に示します。ステークホルダーに対し、企業の成長戦略や将来の方向性を明確に伝えるようにしましょう。
6. 成果指標
成果指標は、企業の業績や目標達成度を測定するための項目です。これまでどのような価値を創出してきたのかを公表します。財務指標だけでなく、非財務指標も含めてまとめることが重要です。
財務指標には、売上高・利益率・ROEなどをまとめ、非財務指標には顧客満足度・従業員エンゲージメント・環境パフォーマンスなどを掲載しましょう。
成果指標の推移を示すことで、企業の業績や課題をステークホルダーに伝えられます。
7. ガバナンス
ガバナンスとは、企業の意思決定や経営の監督に関する仕組みです。取締役会の構成や役割・経営者の報酬体系・内部統制システムなどがガバナンスに含まれます。
統合報告書では、ガバナンスの体制や取り組みを詳細に説明することが求められます。具体的には社外取締役の選任理由や活動内容・株主との対話の状況などが挙げられるでしょう。
近年企業の不祥事が相次いでいることに伴い、ガバナンスの重要性は高まっています。
持続的に企業が成長し続けるための規律として、企業のガバナンスが機能していることをアピールできれば、投資家を安心させられるでしょう。
8. エンゲージメント
エンゲージメントとは、企業とステークホルダーとの積極的な対話を意味します。株主や投資家・従業員・顧客・取引先・地域社会など、多様なステークホルダーとのエンゲージメントが企業活動において重要です。
エンゲージメントを通じて、ステークホルダーの期待や要請を把握し、経営に反映させられます。統合報告書では、エンゲージメントの方針や体制・具体的な取り組み事例などを紹介します。
ステークホルダーとの建設的な対話の状況を開示することで、企業への信頼や支持が得られるでしょう。
統合報告書の作り方5ステップ
統合報告書を作る際の手順を5つの手順に分けて紹介します。
- 1.読み手をターゲティングし行動変容を想定する
- 2.発行時期とコストを決定する
- 3.方向性を明確にする
- 4.統合報告書の制作に着手する
- 5.自社サイトで公表しプレスリリースで配信する
1ステップずつ詳しく見ていきましょう。
1. 読み手をターゲティングし行動変容を想定する
まず、統合報告書の読み手となるステークホルダーを特定することが重要です。株主や投資家・従業員・顧客・取引先など、主要なステークホルダーを明確にします。
作成された資料がどのように利用されるのかも考慮すると統合報告書の政策方針を立てやすくなります。
たとえば、営業資料として営業担当者が利用するのであれば、商品やサービスに関する性能や付加価値について詳しく説明したほうが使い勝手が良くなるでしょう。
また、統合報告書を通じて、ステークホルダーにどのような行動変容を促したいかを想定します。
具体的には、投資家には投資判断の材料を提供し投資意欲を引き出したり、従業員にはモチベーション向上を促したりするなど、具体的な目的を設定します。
読み手の行動変容は統合報告書の発行目的に直結するので、制作前に考えをまとめておくと良いでしょう。
2. 発行時期とコストを決定する
統合報告書の発行時期を決定します。決算終了後に発行するケースが一般的ですが、自社の状況に合わせて適切な時期を選ぶと良いでしょう。
また統合報告書の作成には一定のコストがかかるため、予算を確保する必要があります。印刷費・デザイン費・写真撮影費など、必要な費用を見積もりましょう。
社内の人的リソースを活用したり、外部の専門家に依頼したりすることも選択肢に挙げられます。
なお、弊社ストリームラインでは資料制作のご依頼を承っています。統合報告書の作成についてお困りの方はIR資料に特化した資料作成サービス「LEAD」までお気軽にご相談ください。
3. 方向性を明確にする
次に、統合報告書の全体的な方向性を明確にします。企業の価値観やビジョン・戦略をどのように伝えるかを検討しましょう。
統合報告書の構成や章立て、ページ数なども方向性に沿って決定します。他の企業がどのような統合報告書を発行しているのかを確認すると、ボリュームや情報量のバランスの参考になるでしょう。
また「IIRC国際統合フレームワーク」などのフレームワークを活用するのも有効な手段と言えるでしょう。
4. 統合報告書の制作に着手する
統合報告書の制作は、企業のさまざまな部門が協力して進める必要があります。IR部門・経理部門・人事部門・広報部門など、関連部門のメンバーでプロジェクトチームを結成します。
本格的に制作し始める前に、経営層や事業責任者の意見を反映させることも重要です。上層部の意見も反映できたら全体のスケジュールを立て、各部門の役割分担を明確にします。統合報告書のコンテンツを収集できたら、原稿を作成しましょう。
デザインや編集は、社内のデザイン部門やIR部門が担当するか、外部の制作会社に依頼するのも選択肢のひとつです。
5. 自社サイトで公表しプレスリリースで配信する
統合報告書が完成したら、自社のウェブサイトに掲載しましょう。
また、統合報告書の発行に合わせてプレスリリースを配信します。プレスリリースには、統合報告書の概要や見どころ、発行の狙いなどを記載することが大切です。
統合報告書のダウンロードデータを用意すると、ステークホルダーが入手しやすい環境を整備できるでしょう。
日経統合報告書アワードのグランプリ3社を紹介
見本となる統合報告書を3つピックアップしました。
- 1.コンコルディア・フィナンシャルグループ
- 2.東京応化工業
- 3.野村総合研究所
2023年の日経統合報告書アワードを受賞したレポートなので、参考になる箇所が多いと思われます。
1. コンコルディア・フィナンシャルグループ
コンコルディア・フィナンシャルグループの統合報告書は、ROE向上と人財戦略の説明が営業戦略としっかり結びついていることが評価されました。
CEOメッセージには気迫がこもり、CFOによるROE向上のロジックツリー解説も分かりやすいと好評です。
資本コスト抑制にも言及しており、投資家に重要な情報を提供しています。また、PBR課題に真正面から取り組む姿勢も評価されました。
2. 東京応化工業
東京応化工業の統合報告書は、競争優位性とビジネスモデルなど、読者に伝えたいことが網羅的かつ具体的に開示されている点が認められました。
投資家が知りたい情報が充実しており、施策も含めて詳細に説明されているだけでなく、社長メッセージでは企業価値向上策が明確に示されています。
CFOが非財務資本の長期的資産化に言及するなど、統合思考が見事に結実した報告書であると高く評価されました。
3. 野村総合研究所
野村総合研究所の統合報告書は、DX3.0に挑戦する成長ストーリーに一貫性があり、説得力がある点が認められました。
気候変動対応や人材戦略は経営戦略と連動しており、整合性が取れています。
また事業を通じた社会課題解決への提言は目標が高く、CSV経営の実践が感じられます。ESGマテリアリティのプロセス開示もわかりやすく、統合報告書のお手本と言えるレポートである点が評価されました。
統合報告書の作成に困ったら資料制作のプロへお任せ!
統合報告書の作成は、企業のさまざまな部門が協力する必要があり時間と労力を要する大変な作業です。
しかし、統合報告書を作成する重要性は年々高まっており、投資家やステークホルダーとのコミュニケーションツールとして欠かせません。
もし、統合報告書の作成に悩んでいるのであれば、資料制作のプロに相談するのも一つの選択肢です。専門家のアドバイスを得ることで、効果的な情報開示と見やすいデザインを実現できるでしょう。
弊社ストリームラインでは、資料制作の依頼を承っています。統合報告書の作成についてお困りの方はIR資料作成代行サービス「LEAD」までお気軽にご相談ください。