人間中心のAI社会原則とは?概要や基本理念・7つの柱について解説

近年、AI技術は急速に発展し、私たちの生活やビジネスに大きな変革をもたらしています。AIは、業務効率化に貢献する一方で、プライバシーやセキュリティ・倫理的な課題も浮上しています。
こうした背景から、AIと人間が共存する社会を実現するための指針として「人間中心のAI社会原則」が策定されました。
本記事では、本原則の概要や基本理念・7つの柱について分かりやすく解説します。ぜひ参考にしてみてください。
目次
・人間中心のAI社会原則とは?
・人間中心のAI社会原則の基本理念
1. 人間の尊厳が尊重される社会
2. 多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会
3. 持続可能な社会
・人間中心のAI社会原則における5つの観点から見た社会変革
1. 「人」の役割と能力の変化
2. 「社会システム」の柔軟な対応
3. 「産業構造」の変革
4. 「イノベーションシステム」の構築
5. 「ガバナンス」のあり方
・AI社会原則の7つの柱
1. 人間中心の原則
2. 教育・リテラシーの原則
3. プライバシー確保の原則
4. セキュリティ確保の原則
5. 公正競争確保の原則
6. 公平性、説明責任及び透明性の原則
7. イノベーションの原則
・人間中心のAI社会原則に基づいてAIを積極的に活用しましょう
人間中心のAI社会原則とは?
「人間中心のAI社会原則」とは、AIの発展と利用において人間の尊厳や自律性を最優先する指針です。2019年に日本政府が策定し、AIの開発や運用における基本理念を定めています。
基本理念とは、具体的には「人間の尊厳が尊重される社会」「多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会」「持続性ある社会」などが挙げられます。
プライバシーやセキュリティの保護も重要な柱であり、個人データの適正な取り扱いについて触れられているのも大きな特徴です。
また、教育やリテラシー向上の機会提供も含まれ、AIと共存するための知識習得を促す目的もあります。
人間中心のAI社会原則は、技術発展と人間中心の価値観を両立させ、AIがもたらす恩恵を社会全体で公平に受け取るための指針となるでしょう。
人間中心のAI社会原則の基本理念
人間中心のAI社会原則の基本理念を理解するには、以下の3つの要素が欠かせません。
- 人間の尊厳が尊重される社会
- 多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会
- 持続可能な社会
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 人間の尊厳が尊重される社会
AI技術は、人間の尊厳を最優先する社会の実現を目指すものです。AIは、人間の意思決定や判断を支援するツールであり、人間の自律性を奪うものであってはなりません。
AIシステムの判断が人間の生命や権利に影響を与える場合、最終決定権は常に人間が持つべきといえるでしょう。
具体例として、医療診断や司法判断においてAIは補助的役割にとどめておき、重要な決断は人間である医師や裁判官が行うことなどが挙げられます。
AIの発展により生じる利益は社会全体で公平に共有され、デジタルディバイドを拡大させないことが重要です。
デジタルディバイドとは…
情報通信技術を活用できる人とできない人の間に生じる格差のこと
人間中心のAI社会とは、技術の進歩と人間の尊厳の両立を常に意識した社会のことを指します。
2. 多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会
AIは、多様な価値観や背景を持つ人々が、各自の幸せを追求できる社会の実現に貢献するために活用されるのが理想です。
年齢や性別・国籍・宗教・経済状況など、さまざまな違いを持つ人々がAIの恩恵を平等に受けられる環境をつくることが求められます。
そのため、AIシステムにおいては特定の集団を有利にしたり、不利益を与えたりする偏りを排除する必要があります。
たとえば、採用AIが導入された場合、AIが無意識に性別や人種による選別をしないよう、学習データの多様性を確保することが求められるでしょう。
また、高齢者やデジタル機器に不慣れな人々がAIをかんたんに利用できるインターフェースを開発することも不可欠です。AIの発展が新たな格差を生まない配慮と、既存の不平等を解消する方向での活用が望まれます。
3. 持続可能な社会
AIは、環境問題や社会課題の解決を通じて持続可能な社会の実現に貢献する技術です。AIを活用することで、エネルギー消費の最適化や資源の効率的な利用が可能になります。
たとえば、気象データの分析による再生可能エネルギーの発電予測や交通渋滞の緩和などが実現できるでしょう。
また、高齢化社会における労働力不足の解消や、遠隔医療の普及による地域間医療格差の是正にもAIが役立ちます。
一方で、AIシステム自体の消費電力や環境負荷にも配慮する必要があります。データセンターの省エネルギー化や、AIモデルの軽量化など、環境に配慮した開発・運用が求められます。
さらに、AIの恩恵が特定の地域や層に集中せず、社会全体に公平に行き渡ることも重要です。
AIの開発・利用においては、現在の社会課題解決と将来世代のニーズを両立させる視点が不可欠となるでしょう。
人間中心のAI社会原則における5つの観点から見た社会変革
人間中心のAI社会原則における社会変革について押さえることは、AIがもたらす変化を理解するうえで重要です。ここでは重要なポイントを5つ紹介します。
- 「人」の役割と能力の変化
- 「社会システム」の柔軟な対応
- 「産業構造」の変革
- 「イノベーションシステム」の構築
- 「ガバナンス」のあり方
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 「人」の役割と能力の変化
AIの発展により人間の役割と能力は大きく変化しています。単純作業や定型業務はAIが代替し、人間はより創造的で高度な判断を要する仕事にシフトしています。
たとえば、医療分野では画像診断補助にAIが活用され、医師はより複雑な症例分析や患者とのコミュニケーションに時間を割けるようになるでしょう。
教育現場でも基礎知識の習得支援にAIが用いられ、教師は個々の生徒の思考力や創造性を伸ばす指導に注力できます。
こうした変化に対応するため、人間には批判的思考力や創造性・共感能力といった「AIにはない能力」の強化が求められています。
今後は、人間とAIが互いの強みを活かし合う協働関係を構築することが社会発展の鍵となるでしょう。
2. 「社会システム」の柔軟な対応
AIの発展に合わせた社会システムの柔軟な変革が求められています。
実際、技術革新のスピードに法制度や規制が追いつかず、既存のルールがイノベーションを阻害する事態が生じています。
たとえば、自動運転車の公道走行には、人間が運転することを前提とした道路交通法の見直しが必要です。
医療分野においても、AI診断支援ツールを活用するには、医師法や薬事法の枠組みを再考することが不可欠となるでしょう。
また、教育システムもAI時代に適応し、プログラミング教育や情報リテラシーの強化が学校カリキュラムに導入されました。
雇用制度においても、テレワークやギグワークなど新しい働き方に対応した労働法制の整備が進んでいます。
社会システムの柔軟な変革なくして、AIがもたらす恩恵を最大化することは難しいでしょう。
3. 「産業構造」の変革
AIの進展により産業構造は根本から変革され、新たな雇用形態と労働環境が生まれています。
従来の定型業務は自動化され、クリエイティブな判断や対人サービスに価値を見出す時代となりました。
製造業では、AIロボットによる生産ラインの最適化が進み、人間の監視・制御役割が重視されています。サービス業においても顧客データ分析による個別化サービスが標準となり、人間ならではの共感力が差別化要因となっています。
また、AIを活用した新規ビジネスが次々と誕生し、データサイエンティストやAI倫理の専門家といった新職種が生まれつつあります。
テレワークやギグワークなど柔軟な働き方も広がり、地方でも高度な仕事に従事できる環境が整備されていっています。
こうした産業構造の変革に対応するため、生涯学習システムの充実と労働法制の見直しが社会的課題といえるでしょう。
4. 「イノベーションシステム」の構築
イノベーションシステムの構築は、AIがもたらす社会変革を持続可能にするための基盤です。AIの技術革新を社会全体で活用するには、産学官の連携による研究開発体制が不可欠となります。
とくに、大学や研究機関と企業が密接に協力し、基礎研究から実用化までの道筋を明確にすることが重要です。また、スタートアップ企業への投資環境を整備し、新たなビジネスモデルの創出を促進する必要があります。
多様な人材が集まる場を設け、異分野の知識や技術が融合することでAI活用の可能性が広がります。
この過程では、規制のあり方も見直し、イノベーションを阻害しない法制度の構築が求められるでしょう。
データの共有と利活用を促進するプラットフォームも、イノベーションを加速させるために重要です。
人間中心のAI社会を実現するには、技術と社会システムの両面からのイノベーションが相互に作用する生態系を形づくることが求められます。
5. 「ガバナンス」のあり方
AI社会原則におけるガバナンスとは、AI技術と社会の共存を実現するための仕組みづくりを指します。
企業は、自社のAI倫理指針を策定し、社内教育やリスク評価プロセスを確立することを求められるでしょう。
技術の進化に合わせて、継続的にルールを見直す仕組みも重要です。
また、政府は法規制と業界自主規制のバランスを考慮した柔軟な規制の枠組みを構築する役割を担います。
AIガバナンスが成功すれば、人間の尊厳と権利を守りながら技術革新の恩恵を最大化する社会の実現につながるでしょう。
AI社会原則の7つの柱
AI社会原則の7つの柱を理解することは、人間中心のAI社会を実現するうえで重要です。ここでは以下の7つの原則について詳しく紹介します。
- 人間中心の原則
- 教育・リテラシーの原則
- プライバシー確保の原則
- セキュリティ確保の原則
- 公正競争確保の原則
- 公平性、説明責任及び透明性の原則
- イノベーションの原則
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 人間中心の原則
人間中心の原則とは、AIの開発や利用において常に人間の尊厳と自律性を最優先する考え方です。
AIは、あくまで人間の幸福や社会課題の解決のための道具であり、人間を支配したり置き換えたりするものではありません。
たとえば、医療現場ではAIによる診断支援は医師の判断を補助するものであり、最終決定権は医師にあります。
教育分野でも、AIは個々の学習者の理解度に合わせた学習支援を提供しますが、教師の役割や人間同士の交流の重要性は変わりません。
また、AIによる自動化で仕事が奪われる懸念に対しては、新たな職業創出や再教育の機会を提供することが求められるでしょう。
人間中心の原則は、技術発展と人間らしさの共存を目指す、AI社会の根幹となる価値観といえます。
2. 教育・リテラシーの原則
教育・リテラシーの原則は、すべての人がAIを理解し活用できる社会を目指すものです。よって、リテラシーを育むAIの教育環境は平等に提供されなければなりません。
AIの発展に伴い、その仕組みや可能性・限界を知ることが一般的な市民に求められる基本的な能力といえます。
学校教育に対しては、プログラミングやデータサイエンスの基礎を学ぶ機会を提供する必要があります。
社会人向けには、業種別のAI活用事例や実践的なスキルを学べる再教育プログラムの構築が求められるでしょう。
AIの判断過程を批判的に検証できる思考力や、AIと協働するコミュニケーション能力の育成も不可欠です。企業には、従業員のAIリテラシー向上のための研修機会の提供が期待されます。
AIリテラシーの向上は、技術革新の恩恵を社会全体で享受し、AIがもたらす課題に対応するための基盤となるでしょう。
3. プライバシー確保の原則
AIの発展において、個人のプライバシー保護は最優先事項です。AIシステムは、膨大な個人データを収集・分析するため、その取り扱いには厳格なルールが必要です。
企業は、ユーザーデータの収集目的を明確に説明し、同意を得なければなりません。
また、個人情報の匿名化など、技術的な保護も求められます。AIによる監視技術の普及により、公共空間でも個人の行動が追跡される可能性が高まっています。
プライバシー保護は、AI技術の信頼性を高め、持続可能な発展のための基盤となるでしょう。
4. セキュリティ確保の原則
AIシステムは、高度なセキュリティ対策によって保護されなければなりません。AIの普及に伴い、サイバー攻撃のリスクも増大しています。
とくに、自動運転車や医療診断など人命に関わるAIシステムでは、セキュリティの欠陥が重大な事故につながる恐れがあります。
サイバー攻撃からの防御だけでなく、AIシステム自体の堅牢性も求められます。
たとえば、データの暗号化やアクセス制限・定期的なセキュリティ監査などの対策が必要です。また、AIの判断プロセスを監視し、異常な動作を検知するシステムの実装も求められます。
開発者は脆弱性を定期的に検査し、発見された問題に迅速に対応する体制を整える必要があります。さらに、ユーザーにもセキュリティリスクと対策について啓発することも大切です。
AI技術の発展と共にセキュリティ技術も進化させ、安全なAI社会の基盤を構築することが、この原則の本質といえます。
5. 公正競争確保の原則
公正競争確保の原則とは、AIの開発・利用において健全な競争環境を維持することを求めるものです。
AIの技術革新は、特定企業による独占を生みやすく、市場の寡占化につながる恐れがあります。
そのため、AIに関連するデータやアルゴリズムへのアクセスを広く可能にすること大切です。さらに、知的財産権の保護と活用のバランスを取り、イノベーションを促進することも求められるでしょう。
独占禁止法などの競争法の枠組みをAI時代に合わせて見直すことも検討すべき課題です。
公正な競争環境の確保は、AI技術の健全な発展と社会全体の利益につながる基盤となるでしょう。
6. 公平性、説明責任及び透明性の原則
AIシステムは公平性を保ち、その判断過程を説明できる透明性が求められます。AIによる自動判断が差別や偏見を生まないよう、開発の段階からデータの偏りに注意する必要があります。
たとえば、採用AIが特定の性別や人種を優先すれば、社会的不公平が拡大する恐れがあります。AIの判断根拠を「ブラックボックス」にせず、利用者や影響を受ける人々にわかりやすく説明することが重要です。
責任の所在も明確にし、問題発生時に誰がどのように対応するかをあらかじめ定めておくべきでしょう。
このような原則を実践することで、AIへの社会的信頼が高まり、持続可能な技術発展が可能となります。
7. イノベーションの原則
イノベーションの原則とは、AIの開発・活用を通じて社会課題の解決や経済発展を促進するための指針です。AIは、医療・交通・防災など多様な分野で革新をもたらす可能性を秘めています。
この原則では、AIの研究開発や事業化を阻害する不必要な規制を見直し、技術革新を後押しすることを重視します。
具体的には、オープンデータの推進やAPI公開などによる技術共有の仕組みが挙げられます。
また、AIに関する基礎研究への継続的な投資や、産学官連携によるエコシステムの構築も不可欠です。
イノベーションの原則は、AIの恩恵を社会全体に行き渡らせるための土台となり、持続可能な発展への道を切り拓くことを目的としています。そのため、国境や人種、性別、国籍、年齢、などさまざまな垣根を越え、産学官民の連携を推進していく必要があります。
人間中心のAI社会原則に基づいてAIを積極的に活用しましょう
人間中心のAI社会原則は、私たちの社会がAI技術と共に発展するための重要な指針です。
AIは人間の創造性や判断力を補完し、業務効率化や社会課題解決に大きく貢献する可能性を秘めています。
とくに、議事録の作成やデータの取りまとめなどの定型作業をAIに任せることで、より創造的で付加価値の高い業務に集中できるようになるでしょう。
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