ESGとは?IR活動に欠かせない取り組みや成功事例も紹介
近年、企業のIR活動において、ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みが注目を集めています。投資家は、投資先を判断する際に財務情報だけでなく企業のESG戦略も重視するようになりました。
本記事では、ESGの基本概念やIR活動における重要性・効果的な取り組み方まで包括的に解説します。ぜひ参考にしてみてください。
目次
ESGとは?概要を解説
1. ESGとはESGスコアとは
2. SDGsやCSRとのちがい
IR活動においてESGに関する取り組みが重要視される理由
1. 企業価値を長期的に向上するため
2. サステナビリティ・リスクを抑えるため
3. 資金調達を円滑にするため
IRを意識したESGに取り組む際のポイント
1. 自社の重要課題を特定する
2. 投資家視点に立って情報を開示する
3. 定量的に目標を設定しKPIを活用する
4. ステークホルダーとの対話を強化する
5. 情報を開示する際は透明性を確保する
ESGへの取り組み事例
1. 三菱ケミカルホールディングス
2. ユニリーバ
3. BMW
IR活動にESGを意識した取り組みは必須
ESGとは?概要を解説
ここでは、ESGの基本概念について詳しく紹介します。それぞれ見ていきましょう。
ESGとは
ESGは、環境・社会・企業統治の側面から企業の取り組みを包括的に捉える概念です。近年、投資家のESGに対する関心が高まり、企業価値の判断基準として注目されています。
ESGの取り組みは、ポジティブなインパクト(機会)をもたらすのための活動とネガティブな影響(サステナビリティ・リスク)を回避するための活動に分けられます。
機会は、SDGsとほぼ同義であり、自社の事業に根ざした課題解決や事業とは独立して行う慈善活動(寄付・ボランティア)などの社会貢献活動が挙げられます。
一方、サステナビリティ・リスクは、企業が環境や社会に迷惑をかける懸念のことです。サステナビリティ・リスクを最小化する取り組みは、CSR(企業の社会的責任)とも呼ばれます。
ESGの取り組みは、リスク管理のためだけでなく、イノベーションや新規市場開拓の機会としても重要です。企業は、ESGへの取り組みを通じて、長期的な成長と社会的信頼を獲得することが求められています。
ESGスコアとは
ESGスコアは、企業のESG関連の取り組みを数値化した評価指標です。評価機関が公開情報や調査結果を基に、独自の基準で算出します。
ESGスコアを高めるには、企業側からESG情報を積極的に開示したり、各機関が共通して評価している項目(CO2排出量削減など)を積極的に取り入れたりする必要があるでしょう。投資家は、ESGスコアを参考に企業のリスクや将来性を判断するため、スコアを高めることはスムーズな資金調達に直結します。
なお、評価機関によってスコアを付ける基準が異なります。そのため、同一企業でも評価機関によってスコアにちがいが生じることは押さえておきましょう。
SDGsやCSRとのちがい
ESG・SDGs・CSRは、関連性はあるもののそれぞれ異なる概念です。各用語のちがいは、以下のとおりです。
SDGs | 国連が定めた持続可能な開発目標・広範な社会課題解決を目指す |
CSR | 企業の社会的責任のこと 事業を運営するうえで利害が発生する関係者に説明責任を果たす |
ESG | 環境・社会・企業統治の側面から企業の取り組みを包括的に捉える概念 SDGsやCSRの取り組みを投資判断の材料として活用する |
つまり、ESGにおけるポジティブなインパクトを引き起こすための活動をSDGsと呼び、ネガティブなインパクトを削減するための責任がCSRと言えます。
IR活動においてESGに関する取り組みが重要視される理由
ESGに関する取り組みがIR活動において重要視される理由は、主に以下の3つです。
- 1. 企業価値を長期的に向上するため
- 2. サステナビリティ・リスクを抑えるため
- 3. 資金調達を円滑にするため
ひとつずつ見ていきましょう。
1. 企業価値を長期的に向上するため
ESGは、企業価値を長期的に向上させるうえで欠かせない取り組みです。ESGの考え方に基づいて企業を運営することは、環境・社会・ガバナンスの3点において、それぞれ以下のようなメリットが挙げられます。
環境面 | コスト削減や新市場開拓につながる |
社会面 | 人材確保や地域との良好な関係構築に貢献する |
ガバナンス | 経営の透明性向上や不正リスクの低減につながる |
ESGの取り組みは、短期的なコストがかかる場合もありますが、長期的には競争力強化につながるでしょう。
2. サステナビリティ・リスクを抑えるため
ESG投資を重視する流れが生まれた背景には、サステナビリティ・リスクを軽減する目的があります。
自社の利潤を追求するスタイルの企業運営は、気候変動に悪影響を及ぼしたり労働環境の悪化を招いたりするリスクが生じることは避けられません。従来の財務指標だけでは、このようなリスクを十分に把握できないため、企業に対してESGへの積極的な取り組みと情報開示が呼びかけられています。
サステナビリティ・リスクを事前に特定し対策することで、企業が環境や社会に対して迷惑をかける可能性を最小限に抑えられるでしょう。
3. 資金調達を円滑にするため
ESG評価を高めることは、資金調達の円滑化に直結します。投資家や金融機関は、投資先の企業を判断する材料のひとつとして、ESGスコアを参考にしています。
投資家がESGの取り組みを評価する理由としては、以下のポイントが挙げられます。
リスク管理の指標 | 高いESG評価は、企業が環境・社会・ガバナンスに関するリスクを適切に管理していることを示す。 将来的な法規制の変化や社会的要請に対する耐性を意味し、投資家にとって重要な判断材料となる。 |
イノベーション能力の証明 | ESGへの積極的な取り組みは、企業が社会の変化に適応し、新たな機会を見出す能力があることを示す。 長期的な成長ポテンシャルを評価するうえで重要な要素と言える。 |
資本コストの低減 | ESG評価の高い企業は、一般的に資本コストが低くなる傾向がある。 投資家がリスクプレミアムを低く見積もるためであり、結果として有利な条件での資金調達が実現する。 |
ESG評価の高い企業は、投資家からの信頼を得やすいため、ESGと資金調達の関係は切っても切り離せません。つまり、ESGを重視する姿勢が安定的な資金調達を可能にすると言えるでしょう。
IRを意識したESGに取り組む際のポイント
ESGに取り組む際のポイントは以下の5つです。
- 1. 自社の重要課題を特定する
- 2. 投資家視点に立って情報を開示する
- 3. 定量的に目標を設定しKPIを活用する
- 4. ステークホルダーとの対話を強化する
- 5. 情報を開示する際は透明性を確保する
それぞれ詳しく解説していきます。
1. 自社の重要課題を特定する
ESGに取り組む際は、最初に自社の重要課題(マテリアリティ)を特定することが不可欠です。会社が、何をマテリアリティとして定義しどのように解決していくのかについての方針を株式市場に伝えることで、企業としての成長可能性をアピールできるでしょう。
マテリアリティは、以下の3つに大別されます。
シングル・マテリアリティ | 環境や社会が会社に与える影響を考慮する |
ダブル・マテリアリティ | 環境や社会が会社に与える影響に加えて 会社が環境や社会に与える影響についても考慮する |
ダイナミック・マテリアリティ | 会社が定義すべきマテリアリティは 事態とともに移り変わるものであるという考え方 |
シングル・マテリアリティは投資家視点の考え方で、たとえば「冷夏になるとアイスクリームの売上にどのような影響があるか」といった考え方をします。
一方、ダブル・マテリアリティは、投資家視点の考え方に加え、環境や社会の視点での重要課題も考慮します。環境や社会の視点とは、たとえば「工業用排水の浄化処理を怠ると、水質にどれほどの悪影響を与えるか」といった着眼点です。
企業理念や経営戦略との整合性を考慮しつつ課題を洗い出し、業界動向やESG基準・ステークホルダーの期待を参考にしましょう。課題特定後は、具体的な取り組みにつなげていくことが重要です。
2. 投資家視点に立って情報を開示する
投資家と良好な関係を構築するには、ESGに関する取り組みについての情報を積極的に提供する必要があります。
事実「ESGへの取り組みに関する情報開示は十分と考えるか」という問いに対して、企業と投資家との間で認識に大きな開きがあることがわかります。
約半分の企業はESGの取り組みについて「十分開示している」と認識しているのに対し、投資家はわずか2%としか十分だと感じていません。このことから、企業は投資家に対して、ESGにおけるリスクや機会・対応戦略をより詳細に説明する必要があることがわかるでしょう。
また、マテリアリティの特定プロセスも、投資家から高い関心を集めています。投資家が求めている情報を先読みしながら、投資家に説明することが関係を深める鍵と言えるでしょう。
3. 定量的に目標を設定しKPIを活用する
定量的な目標設定は、ESG取り組みの具体化に不可欠です。過去の実績や国内外の目標値を参考にしましょう。
環境分野では、バックキャスティング手法が有効です。バックキャスティング手法とは、将来の目標を設定し、逆算して今やるべきことを目標として掲げる手法です。将来のあるべき姿を定義してから、今の目標を定めることで、説得力のあるKPIを設定できます。
具体例
2030年までにCO2削減量50%を達成するために、今年は老朽化した生産設備の20%を最新のものに入れ替える。
この例からは、2030年のCO2削減目標を達成するために、徐々にCO2排出量が少ない最新設備に置き換えるという一貫した方向性が伺えます。
このように、定量的に目標を設定することで、ESGに対して真摯に取り組んでいることをアピールできるでしょう。
4. ステークホルダーとの対話を強化する
ステークホルダーとの対話を強化すると、ESGの取り組みが効果を発揮しやすくなります。投資家や従業員・取引先など幅広い対象と対話し、企業に対する期待や懸念を理解したうえで、経営戦略に反映させることが大切です。
また、定期的な対話の機会を設けてESGの進捗や課題を共有し、的を射たフィードバックを得られればより実効性の高い施策を展開できるでしょう。このような取り組みが、ステークホルダーからの信頼獲得につながります。
5. 情報を開示する際は透明性を確保する
ESG情報開示では透明性の確保が極めて重要です。良い面だけでなく、課題や改善点も包括的に提供することを意識しましょう。
具体的な数値や事例を用いて進捗や成果を説明すれば、開示情報の信頼性を高められます。透明性の高い情報開示が、投資家の信頼獲得と企業価値向上につながるでしょう。
なお、ESGの取り組みを公表する重要資料である「サステナビリティレポート」の作り方については、以下の記事を参考にしてみてください。
▶ 【制作事例付】サステナビリティレポートとは?目的や盛り込むべき項目・作り方を解説
ESGへの取り組み事例
ここでは、ESGへの取り組みに成功している企業の事例を3つ紹介します。
- 1. 三菱ケミカルホールディングス
- 2. ユニリーバ
- 3. BMW
ぜひ参考にしてみてください。
1. 三菱ケミカルホールディングス
三菱ケミカルホールディングスは「KAITEKI Vision 30」という中長期経営戦略を策定し、ESGに関する活動を推進しています。
KV30では、温室効果ガスの削減や水資源管理・食糧供給・医療進化・デジタル革新・人間快適化などの重点領域を特定し、これらの分野でソリューションを提供することを目指しています。
加えて、サステナビリティマネジメントの強化やKAITEKIファクトリーの実現など、具体的な取り組みも計画しているのが特筆すべきポイントです。このような施策を通じて、三菱ケミカルホールディングスは持続可能な社会の実現と企業価値の向上を目指しています。
参考:三菱ケミカルホールディングス KAITEKI REPORT 2020
2. ユニリーバ
ユニリーバは、創業時から社会貢献を企業理念に掲げ、ESGを経営の中核に据えている企業です。2010年には「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」を導入し、環境負荷低減と社会貢献を両立させながら事業成長を目指してきました。
現在、ユニリーバが掲げているサステナビリティ目標は、以下のとおりです。
気候 | 2039年までにバリューチェーン全体で温室効果ガス排出量を 正味ゼロにすることを目指す |
自然 | 2030年までに主要作物の95%を持続可能な方法で調達し、 100万ヘクタールの農地で再生農業を実践する |
プラスチック | 2026年までにバージンプラスチックの使用量を30%削減し、 2030年までにすべてのプラスチック包装の再利用・リサイクル・堆肥化を可能にする |
生計手段 | 2030年までにバリューチェーン内の人々に生活賃金を保証し、 25万人の小規模農家を支援する |
ユニリーバは、持続可能な成長と社会貢献を両立する先進的企業と言えるでしょう。
参考:Unilever – Our sustainability goals
3. BMW
BMWグループは、サステナビリティを重視し、循環経済を推進することで資源保全と炭素排出削減に取り組んでいます。使用済み車両を新車の原材料として活用する取り組みを進めており、現在もさまざまな部分でリサイクル材料を使用しています。今後は、その使用割合をさらに増やす計画です。
また、持続可能な原材料調達にも注力しており、小さな炭素排出量で高いリサイクル性を持つ原材料を使うことに重点を置いています。
BMWは、循環経済の推進と持続可能な原材料調達により、自動車産業の環境負荷低減を先導している企業と言えるでしょう。
参考:Sustainability & Responsibility|BMW
IR活動にESGを意識した取り組みは必須
ESGを意識したIR活動は、現代のビジネス環境において不可欠です。企業の長期的な成功と持続可能性を確保するための重要な戦略と言えるでしょう。
ESGは単なる規制対応ではなく、新たな成長機会を生み出す源泉となりえます。
積極的なESG戦略の展開が、企業の持続的な成長と社会貢献につながるでしょう。
なお、弊社ストリームラインは、IR資料の作成代行も承っています。資料作成を依頼したい方は、IR資料の制作に特化したサービス「LEAD」までお気軽にお問い合わせください。